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エッセイスト菊池木乃実のブログです。環境活動家の夫、ポール・コールマンと共に南米チリのパタゴニア地方に在住。ホリスティックで持続可能なライフスタイル実践中


by lifewithmc
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ああ、無常にも閉まるテラスのオートロック

11月15日(水)晴れ

朝、テラスに落ちた枯葉をほうきで掃き、ほうきを部屋の中に入れたあと、何も考えずに、ひょいとドアを閉めた。
「あ!」
顔を見合わせる、ポールと私。
「閉めちゃったの?」
「うん・・・」
「鍵は?」
「持ってない・・・・」
「ええ!!!????」
「ごめん」
「うわあ、どうする!閉め出されちゃったよ!!」

そう、ポールはのんびりテラスでコーヒーを飲んでいた。私も、落ち葉を掃いたら、のんびりコーヒーを飲むはずだった。それなのに!
テラスのドアは、オートロック。一度、閉めたら、外からは「絶対に」開かない。鍵を持っていない限り、「絶対に」開かないのだ!

鍵は家の中だった。そして、ポーチの鉄格子には、しっかり鍵がかかり、玄関ももちろん、鍵がかかっている。家のどこを探しても、全ての窓には鉄格子がはめられ、全てのドアには鍵がかかっているのだ!ああ、無常。
「この家のセキュリティーはしっかりしているから、大丈夫よ」とグロリアが言っていたけれど、本当に、どこからも家の中に入って鍵を開ける隙間などない!

「どうしよう!」ああ!心臓が高鳴り、頭に血が上り、私はパニックになる。このままじゃ、家に入れない!
すると、ポールがテラスの隅から鉄の棒を持ってきた。
「これで、こじ開けよう」
思い切り力を込めて、ドアをこじ開けようとする。しかし、そんなものでは、ドアは開かない。黒ハエが容赦なく私たちを刺しにやって来る。んもう!鬱陶しい!緊急事態なのよ!と、泣きたくなる。
ポールは靴も履いていない。私は、偶然、今日に限って、スリッパを履いていた。
「無理だな、開かない」
「うん・・・」
ポールが私のスリッパを見る。
「スリッパ履いてるよね」
「うん」
「じゃ、村へ歩いて行って、グロリアに電話をかけられるね?」
「え?・・・・・わかった、行ってくる」

お金をズボンのポケットに入れていたのは、不幸中の幸いだった。テラスの柵を乗り越え、一階の屋根の上に降り、それから、塀に降りて、地面に飛び降りた。
ああ、どうして、あのとき鍵を持たなかったんだろう。どうして、あのとき、うっかりドアを閉めちゃったんだろう、いつもは、ものすごく気をつけてるのに、どうして今朝に限って・・・と、マイナス思考がぐるぐる回る。
「行ってくるね」と力なく言うと、
「グロリアが来てくれるまで何時間、ここで待たなくちゃならないか、わからないんだから、村の店で、水とクラッカーと虫除けを買ってくるように。それから、薄くて長い金属の板があるかどうか、店の人に聞いてみて。それが、あれば、鍵が開くかもしれないから。わかったね、忘れずにね!」とポールが念を押した。

スリッパで炎天下の中、村まで歩いた。途中、川が増水していて、橋の代わりになっている石は水の下に沈んでいた。しかたなく、スリッパと靴下を脱ぎ、裸足で川を渡り、濡れたまま靴下を履いて、スリッパで歩いた。村までは、3キロぐらいある。その間、自己嫌悪でいっぱいになり、自分を責め、後悔ばかりが浮かんでくる。グロリアは、玄関の合鍵を持っていないと言っていた。だから、私に合鍵を作っておいてね、と何週間も前に言っていたのだ。それなのに、合鍵を作るのを忘れていた。だから、グロリアが来ても、玄関の鍵はないのだ!
ああ、どうしたらいいんだろう!!

なんだか、途方もなく打ちのめされたまま、村へ着いた。店でグロリアに電話をする。
「グロリア、緊急事態発生。テラスのドア、閉めちゃった。鍵、持ってない。鍵、家の中。二人とも家の中に入れない」
パニックになって、うまく英語が出てこない。でも、グロリアは、すぐに事情を飲み込んで、
「わかった。今、治療中だから、それが終わったら、すぐ鍵屋さんを連れて行くから。2、3時間以内で行けると思う。待ってて」と言ってくれたのだった。

多少、落ち着いて、店で、水とグラノラバー、クラッカー、蚊取り線香、ライターを買って、家へ戻る。「あ、金属の板のことを聞くの、忘れた」と気づいたが、店に戻る気力がなかった。その上、スリッパが擦れて、両足の裏に2箇所ずつ、大きな水ぶくれができ始めた。歩くたびに擦れて痛い。
ああ、どうしてこんなことに・・・同じ考えがぐるぐる回る。また、裸足になり、川を渡る。水を2リットル買ったので、重くて腕が痛くなる。

やっとの思いで足を引きずりつつ、家に戻ると、「金属の板、あった?」とポールに聞かれ、「聞くの忘れた」と言うと、彼は肩を3センチぐらい落とし、深いため息をついた。
「どうして、忘れたの?忘れないで、ってあれほど言ったのに。金属の薄い板があったら、鍵が開いたかもしれないんだよ」
「ごめんなさい」
パニックになり、自己嫌悪やら後悔やら自責の念やら、「ああすればよかった」「どうして、ああしなかったのか」的な自己破壊的な思考のおかげで、すっかりエネルギーがなくなり、ぐったりと疲れているところに、「どうして、・・・・しなかったのか?」と言われるのは、ものすごく辛かった。
しかし、ポールは怒っている様子はちっともなく、「まあ、しかたがない」と言い、テラスの柵を跨いで、下へ降りてきた。

蚊取り線香をつけ、日陰に入って、水を飲み、クラッカーを食べる。
私は、とにかく、申し訳ない気持ちと自分を責める気持ちで疲れ果てて、水を飲む気力もない。
「で、グロリアは来てくれるの?」
「あ、うん。玄関の合鍵を持ってないから、鍵屋さんを連れてきてくれるって」
「どれくらい時間かかるって?」
「2、3時間以内って言ってた」
「オーケー」
そう言うと、ポールは急に空き缶ゴミの袋を探し始めた。ゴミ袋も鉄格子のポーチの中だ。でも、彼は長い棒を持ってきて、空き缶ゴミの袋を手元に寄せ、そこから、サバ缶とイワシ缶のフタを探し出したのだった。
「あった、あった!これで開くかもしれない!」ポールはすこぶる嬉しそうに、塀によじ登り、屋根に上り、柵を跨いでテラスへ上がっていった。ああ、決して諦めず、希望を捨てない、彼の精神は、素晴らしい。だから、16年間も、お金もなく、家もなく、人々の助けだけを頼りに歩き続け、木を植え続けて来れたんだなあ、と納得する。私は、ただただ、パニックになり、自分を責めてエネルギーを消耗し、問題を解決するためのエネルギーなど、これっぽっちも残っていない。

ポールは意気揚々と空き缶のフタを持って、テラスへ上がり、どうにかしてドアを開けようと力を尽くす。できることは、すべてやる。それも、彼の精神。それでも、1時間が経過し、汗だくになった彼は、ついに諦めた。
「だめだ、開かない」
ところが、彼は失望するわけでもなく、
「これで、この家の安全対策はものすごく素晴らしいということが証明されたというわけだ」と笑ったのだった。やれることはすべてやり、力尽きて、私たちは屋根の上に座り込み、水を飲み、グラノラバーを食べた。

「ああ、こんなこともあるよね」と彼。「鍵を持ち歩いていないのは、僕も同じこと」
「でも、やっぱり、あれは私の責任。私は、ずっと自分を責めて、後悔して、自分にものすごくがっかりしている。どうして、あんなことしてしまったんだろう・・・って。もちろん、そう思うことが、何の役にも立たないことは、わかってるんだけど。本当にごめんなさい」
私が言うと、
「うっかりドアを閉めちゃうなんて、君じゃなくて、僕がやりそうなことなのにね」と、また、彼は笑ったのだった。と、そこへ、クラクションを鳴らしながら、グロリアが到着した。
「グロリア!ありがとう!」天にも昇る嬉しさ。グロリアと鍵屋さんを見たとたん、身も心も軽く、屋根を下り、塀を伝って、地面に降りた。
「ごめんね、遅くなって」
「ああ、来てくれてよかった、ありがとう!」

早速、グロリアの鍵でポーチの鉄格子を開け、鍵屋さんが玄関のドアの鍵を開けにかかった。しかし、なかなか開かない。
「難しい鍵だなあ」すると、グロリアがカバンから鍵を一つ取り出し、
「ちょっと待って、これ試してみよう」と、鍵穴に入れると、なんと、すんなりドアが開いたのだった。
「よかった!これが玄関の合鍵だったのね。確かじゃなかったから、エトラに寄って、鍵屋さんを連れてきたんだけど、とにかく、開いてよかったわ」
よかった!とにかく、よかった!鍵屋さんは、出張してきたので、200ペソほしいと言う。それも、納得。200ペソを払って、階段を駆け上り、内側からテラスのドアを開けた。
「おお!ずいぶん早かったね」
「結局、グロリアが合鍵、持ってた。でも、鍵屋さんにはお金を払ったよ」
「うんうん、それは、そうだろう。とにかく、開いてよかった。悪夢、終了!」

一件落着し、グロリアの車でエトラへ行き、鍵屋さんでドアの合鍵を作ってもらった。その後、グロリアと別れ、インターネットカフェでメールをチェック、ブログをアップし、マーケットで買い物をし、家に戻ると、ぐったりと疲れていた。

パニックになると、体内に毒物がどっと排出されるようで、ものすごく疲れる。自責の念、後悔、自己嫌悪などの感情は、体内に毒物を作り、細胞にダメージを与える、と聞いたことがあるけれど、それは、本当だ。ましては、何か、問題が起こったときや、問題を起こしたとき、パニックになって、自分を責めたり、後悔したりしても、何の解決にもならないどころか、解決のプロセスを妨げる、ということを、今日は学んだのだった。ふう。
by lifewithmc | 2007-03-28 08:56 | メキシコ・山の暮らし