エッセイスト菊池木乃実のブログです。環境活動家の夫、ポール・コールマンと共に南米チリのパタゴニア地方に在住。ホリスティックで持続可能なライフスタイル実践中


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誰かが木を切っている

10月14日(土)晴れ
朝、台所の窓の外を、少年と犬が歩いていくのをポールが見かけた。
「腰にマシェッタ(鎌)を持ってた。まさか、後ろの花畑を刈り取りに行くんじゃないだろうね」
花泥棒か?急いで、裏の花畑へ行ってみると、そこには誰もいなかった。

「二階をオフィスにしよう。二階の窓からなら、少なくとも前の花畑は見えるから、誰かが来たらすぐにわかる」
ポールの提案で、二階のレイアウトを変えた。机を南の窓際に移動し、前の花畑が見えるようにする。そこに、彼のパソコンを設置し、私のパソコンは西側の窓、テラス側に机を置いてそこに設置した。

ケサディアとフライドビーンズでお昼を済ませ、テラスでお茶を飲んでいると、今度は、どこかから、斧で木を切る音が聞こえてきた。
「ん?誰か、木を切ってるぞ」音は庭の東側のほうから聞こえてくる。カーン、カーン、カーン。かなり近い。耳を済ませていると、どうやら、その音は、敷地の中にある山の中腹から聞こえてくるのだった。
「うち?」
「うん、山の方だね」
はぁ~。ポールがため息をつき、ティーカップを置いて外へ出て行った。私も後をついていく。音を頼りに、山を登る。かなり上のほうから聞こえてくる。すると、まもなく、音がやんだ。
「気がついたのかな?」
少しずつ上へ登っていくと、いきなり茂みから人が現れた。
「ブエノスタルデス!」帽子をかぶり、日に焼けた老人が挨拶をして、そそくさと降りていく。手には大きなマシェッタ(三日月形の鎌)を下げており、切り倒したばかりの幹を2本肩にかついで持っていくところだった。
「あの人だよね」とポール。
「多分ね」
「グロリア、この山の頂上まで、全部、彼女の敷地だって言ってたよね」
「うん、たしかそうだと思うけど」
「今度、彼女に確かめておこう。もし、そうなら、次にこんなことがあったときには、ちゃんと言わないといけないから」
老人は、山を下り、花畑を横切って、敷地の外へ出て行った。
「あの人、今朝、台所の外の道を通っていったよ。そのとき、台所の窓に僕が立っているのに気がついて、ものすごく驚いた様子だった」
「グロリアさんがいない間、きっと木を切りに来ていたんだろうね」
「多分ね」

家に戻って、あらためて熱い紅茶を入れ、テラスへ出た。
すると、今度は小川の向こうの山から木を切る音が聞こえた。
「こんな風にみんなが木を切り続けたら、あっという間に木がなくなって、この小川の水も干上がってしまう。この水は村の人にとって大切な水源のはずなんだ。だから、水を守るために森を守らなくちゃいけない。木を切ってもいいけど、木が育つには何年もかかるんだから、切るよりも、もっと多く植えなくちゃいけないんだよ。長い目で見たら、人間にとってもそのほうがずっといいんだ。それが、持続可能な発展ってことなんだよ」
16年間、「木を植えよう」と言い続け、実際に木を植えながら、歩く旅を続けてきた彼にとっては、目の前で木が切られるのは、自分のことのように辛いのだ。

すると、どこからともなく、「ズズズズ」という蜂の羽音のような音がした。音のほうを見ると、そこには、青と緑の美しいハチドリが飛んでいたのだった。ハチドリは目に見えないほど速く羽をはばたかせ、まるで空中に立っているかのように浮きながら、私たちをじっと見ている。何度か、遠ざかっては近づき、また遠ざかっては近づいて、とうとう、2メートルぐらい近くまでやってきた。よく見ると、口ばしがストローのように長く、赤く、オナカから尻尾までは真っ白だった。
「ハチドリだ!生まれて初めて見た!」
世にも可愛らしい生き物を目の前にし、純粋な歓びが身体の底からふつふつと湧き上がってきた。羽を必死に羽ばたかせながら、空中に立っているような様子が珍しく、まるで二本足で立っているように見えるのだった。
ハチドリは、しばらく私たちの周りを羽ばたいて、どこかへ飛び去っていった。まるで、がっかりしている私たちを慰めてくれたかのようだった。

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by lifewithmc | 2007-03-03 06:37 | メキシコ・山の暮らし