エッセイスト菊池木乃実のブログです。環境活動家の夫、ポール・コールマンと共に南米チリのパタゴニア地方に在住。ホリスティックで持続可能なライフスタイル実践中


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辛くて嬉しい一日

2日前、私達は、仙庵という町から潮陽という町へ向かって歩いていました。前日に27キロ歩いたのと、町に一軒だけあった旅館のエアコンがうまく働かずに寝不足だったのとで、私は朝からとても疲れていて、バックパックも重く感じ、足を引き摺るようにして歩いていました。

「今日は、15キロ歩けば、ホテルがある町に着くはずだから」とポールに励まされながら、土埃の舞う道路をひたすら歩きました。疲れていた上に、その日は、なかなか前に進まない日でもありました。近道を見つけようと横道に入って30分ほど歩いたところ、大きな川にぶつかって結局、元の道路に戻ったり、田んぼの畦道を歩いて近道したら、畦道が途中でなくなって、田んぼの水路を歩かなければいけなくなり、靴下までびしょ濡れになったり。おまけに途中で雨が降ってきて、歩いているうちにシャツもズボンも濡れてきました。

田んぼを抜けると、小さな集落がありました。そこで、お菓子を買って歩きながら食べ、雨が降ったり止んだりする中を歩きました。

15キロ歩いて、次の町に着きました。時間は午後の5時。昼食を食べていなかったので、お腹がペコペコになり、パンを1つずつ買って食べながら、両側にマーケットが並ぶ通りを歩き続けました。けれども、結局、ホテルは見つからないまま、その町を通り抜け、だんだんと日が暮れていき、雨はとうとう本格的に土砂降りになってきました。

シャッターが閉まっている店があったので、軒先で雨宿りをしました。30分ほど、二人で雨を見つめていました。よっぽど疲れた顔をしていたのでしょう。「あと10キロ歩けば、次の大きな町に着く。そこには絶対、ホテルがあるから。歩き続ければ、辿り着けるから大丈夫」とポールが励ましてくれます。もう休みたい、どこでもいいから横になりたい、と叫ぶ身体を起こして、バックパックを背負い、また歩き続けました。

歩いていると、道沿いはゴミだらけで、特に集落があるところはゴミの散乱がひどく、川も汚れていて、だんだん、気が滅入ってきます。通り過ぎる人たちはみんな「ハロー!」と嬉しそうに言ってくれるけれど、どうして、私達が歩いているのか、歩いているのは観光や旅行ではないということを伝えたいのだけれど、なかなか伝えることができないもどかしさで一杯になります。中国語が喋れれば、ポールのメッセージを伝えることができるのに、と思ったりもします。

こんな時に、自分を励まし、前に進ませるのは、「歩き続けていれば、必ず何かが起きる」という信念です。毎日、目の前で変化が起きるわけではないけれど、積み重ねの先に、必ず何かが変わるはずだという思いです。

そんなことを思いながら歩いていると、いつの間にか、外灯が明るく点る集落に辿り着きました。人が賑やかに行き来していて、新鮮な魚介類や野菜が並んでいる食堂が目に留まりました。午後7時です。次の町まで、あと何キロも歩かなければならないので、そこで食事をすることにしました。

食事をしていると、いつものように人が集まってきました。料理長はお父さん。お母さんと20代の息子と10代の娘達が配膳係という家族経営の食堂です。「どこから来たのですか?観光ですか?」と聞かれたので、新聞記事を取り出して、環境保護のために木を植えながら歩いていることを説明しました。すると、あっという間に、新聞は家族中の手に渡り、お客さんにも回されて行きました。「素晴らしい活動をしていますね。歩くのは辛いでしょう?今夜はどこに泊まるのですか?」など、筆談でいろいろ話をしました。それで、次の町までは5キロほどで、そこには大きなホテルがあることがわかりました。

食事を終えると、写真撮影の時間になりました。いろんな人が携帯のカメラで写真を撮り、ちょっとした大騒ぎになりました。そろそろ、歩き始めなければなりません。

「お勘定をお願いします」そう言うと、食堂のお父さんがこう言いました。
「お金はいりません」
一瞬、言葉を失いました。そして、深く頭を下げました。
「ありがとうございます。感謝します」というと、みんなとても嬉しそうに手を振って見送ってくれました。

食堂を出ると、バックパックが軽く感じました。あちこち痛んでいた足も、痛みが和らいだように感じました。すると、一台の車が止まりました。車の窓が開き、男の人が何かを差し出しました。その人は、食堂にいたお客さんの一人で、携帯のカメラで写真を撮ってくれた人でした。何かを渡そうとしているようなので、ポールが暗闇の中でそれを受け取りました。すると、男の人は、グッドラック!と言って、走り去って行きました。

見ると、それは、お札でした。100元のお札が10枚ありました。1000元。日本円にすると、15000円ぐらいです。
ポールも私も、言葉を失って、しばらく立ちすくんでいました。するとポールが言いました。
「あの人は、名前も言わずに行ってしまった。こういうことが起こると、本当に謙虚な気持ちになるよね」

本当に一瞬の出来事でした。なんとも言えず、感謝の気持ちで胸が一杯になりながら、歩いていると、今度は、4WDの車が止まり、若いカップルが車から降りてきました。そして、私達に、水のボトルがたくさん入った袋をくれました。
「一体、今夜は何が起こっているんだろう?」不思議に思っていると、彼女の方が携帯に中国語を書いて見せてくれました。
「私達は、去年、あなたたちが中国に来たときに放送されたテレビのドキュメンタリーを見ました」
「!!!」
なんと、ドキュメンタリーは1年半前に放送されたものです。それを覚えていてくれたのです。
「頑張ってください!」
カップルはそう言って、去っていきました。

午後10時。やっと次の町に着き、インターネットのあるホテルを見つけました。
濡れた洋服のまま、コンピューターをつなぎ、メールをチェックしました。
すると、香港でお世話になった友達からメールが来ていました。
「コスモポリタン香港の11月号の記事が出たよ」

ポールは、「世界の英雄」というコーナーに、ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんとアウン・サンスーチー女史などと一緒に載っていました。

なんという一日だったでしょう。なんと辛くて、嬉しい一日だったでしょう。
なんだかわからないけれど、すべてのものに感謝したくなりました。

ありがとう。すべてのものに、ありがとう。
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by lifewithmc | 2007-11-01 21:23 | 中国・徒歩の旅